5 min read2026-03-15回復静か
谷中で"昭和に逃げる"半日
古民家喫茶と路地と本屋。令和の疲れを、昭和の時間で溶かす。
令和は速い。通知、返信、既読、スワイプ。目が覚めてから眠るまで、指を止める暇がない。そういう速度に慣れてしまった日常から、たまに降りたくなる。降りる先は、昭和がいい。谷中は、東京に残された昭和の速度で動いている街だ。
千駄木駅から歩いてすぐ、カヤバ珈琲の前に着く。大正5年築の古民家をリノベーションした喫茶店。引き戸を開けると、木の匂いがする。2階の座敷に上がって、ルシアンを頼む。コーヒーとココアを混ぜた飲み物で、甘くてやさしい。窓から差し込む光を見ていると、時計を見なくなる。ここでは、時間が経つのが遅い。それが、いい。
カヤバ珈琲を出て、路地を歩く。谷中の路地は狭くて、少し曲がっている。先が見えないから、曲がるたびに小さな発見がある。ひるねこBOOKSは、そんな路地の中にある。猫の本と、北欧雑貨と、リトルプレス。店主が選んだ本棚を眺めていると、自分では絶対に検索しない本に出会える。猫の写真集を手に取って、数ページめくる。猫は、令和も昭和も関係なく眠っている。
谷中銀座に出る。60軒ほどの商店街は、どの店も小さくて、どこか懐かしい。惣菜屋、煎餅屋、猫の雑貨屋。チェーン店がほとんどない。この商店街を歩くときの安心感は、たぶん子どもの頃の記憶と結びついている。商店街を抜けたら、夕やけだんだんの階段を上がる。振り返ると、屋根の向こうに空が広がっている。夕方なら、ここから見える空がオレンジ色に染まる。その先に、樹齢90年を超えるヒマラヤ杉が立っている。見上げると、90年分の時間がそこにある。昭和に逃げたのではない。自分の速度を、取り戻しただけだった。
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